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涙なしには読めない タコの生涯

生きものたちは、晩年をどう生き、どのようにこの世を去るのだろう──。老体に鞭打って花の蜜を集めるミツバチ、成虫としては1時間しか生きられないカゲロウなど、生きものたちの奮闘と悲哀を描いた『生き物の死にざま』から、タコの章を抜粋・要約する。

タコの生涯(イメージ)

タコについて

タコの体

一般的に、タコは大きな頭に8本の脚というイメージがあるが、大きな頭に見えるものは、実は頭ではなく胴体なのである。

ジブリ映画の名作『風の谷のナウシカ』に王蟲(おうむ)という生き物が登場するが、この王蟲は体の前方に脚があり、脚の付け根の近くに目のついた頭があり、その後ろに巨大な体がある。

じつはタコも、この王蟲と同じ構造なのだ。タコも足の付け根に頭があり、その後ろに巨大な胴体があるのだ。ただし、タコは前に進むのではなく、後向きに泳いでいく。

海での生存

食うか食われるかの弱肉強食の海の世界では、子育てよりも、卵を少しでも多く残すほうが生存確率が高いため、海に棲む生き物の中では、子育てをする生物は少ない。

生まれた卵や稚魚の世話をし子育てをする魚類は、とくに淡水魚や沿岸の浅い海に生息するものが多い。その理由は、狭い水域では敵に遭遇する可能性は高いが、地形が複雑なので隠れる場所がたくさん存在するためであり、親が卵を守ることで卵の生存率が高まるのである。

一方、広大な海では、親の魚が隠れる場所は限られる。下手に隠れて敵に食べられてしまうよりも、大海に卵をばらまいたほうがよいのだ。

タコの生存

タコも沿岸の浅い海に生息しているため、子育てをする子煩悩な生物である。また、子を守る知恵をもたないといけないため高い知能をもっていることが分かっている。


子育てをする海の生物

海の生物にも当然 言えることだが、子育てをするということは卵や子どもを守るだけの知恵と強さを持っている。

オスが子育てする魚類

また、魚類では、メスではなく、オスが子育てをする方が圧倒的に多い。オスが子育てをする理由は明確ではないが、メスは育児よりも、その分のエネルギーを使って少しでも多くの卵を産んだ方ががよいためではないかと考えられている。

メスが子育てするタコ

しかし、タコはメスが子育てをする。タコは母親が子育てをする海の中では珍しい生き物であり、他の魚類とは違って私たち哺乳類に近い営みを行っている。


一生に1度の繁殖

タコの寿命は明らかではないが、2~3年生きると考えられている。そして、タコは生涯に1度だけ繁殖を行う。タコにとって、繁殖は生涯最後にして最大のイベントなのである。

オスの死闘

タコの繁殖はオスとメスが出会って、オスはドラマチックなムードでメスに求愛する。もちろん、複数のオスがメスに求愛してしまい、メスをめぐってオス同士の戦いが始まる。それは死闘とも呼べる壮絶なものだ。何しろ繁殖は生涯で1度きりの大イベントである。このときを逃せば、もう子孫を残すチャンスはない。激高したオスは、自らの身の色を目まぐるしく変えながら、相手のオスにつかみかかる。足や胴体がちぎれてしまうほどの、まさに命を懸けた戦いなのである。

生涯最後の儀式

この戦いに勝利したオスは、改めてメスに求愛し、メスが受け入れるとカップルが成立する。そして相思相愛の2匹のタコは、抱擁し合い、生涯でたった1回の交接を行う。タコたちは、その時間を慈しむかのように、その時間を惜しむかのように、ゆっくりとゆっくりと数時間をかけてその儀式を行う。そして、儀式が終わると間もなく、オスは力尽き生涯を閉じてゆく。交接が終わると命が終わるようにプログラムされているのである。

メスの最後の仕事

残されたメスには大切な仕事が残っている。タコのメスは、岩の隙間などに卵を産みつける。ほかの海の生き物であれば、これですべてがおしまいであるが、タコのメスにとっては、これから壮絶な子育てが待っている。卵が無事にかえるまで、巣穴の中で卵を守り続けるのである。卵がふ化するまでの期間は1カ月。冷たい海に住むミズダコでは、卵の発育が遅いため、その期間は6カ月にも及ぶといわれている。


ふ化まで卵を守る母ダコ

母ダコの愛情

この間、メスは一切餌を獲ることもなく、危険にあふれた海の中では一瞬の油断も許されないため かた時も離れずに卵を抱き続けるのである。時には卵をなで、卵についたゴミやカビを取り除き、水を吹きかけては卵のまわりの澱(よど)んだ水を新鮮な水に替え 卵に愛情を注ぎ続ける。

力を振りしぼる母

餌を口にしない母ダコは、次第に体力が衰えてくるが、卵を狙う天敵は、つねに母ダコの隙を狙っている。また、海の中で隠れ家になる岩場は貴重なので、隠れ家を求めて巣穴を奪おうとする者もいる。その度、母親は力を振り絞り、巣穴を守る。次第に衰え、力尽きかけようと、卵に危機が迫れば、悠然と立ち向かうのである。

感動の瞬間

こうして月日が過ぎ、ついにその日はやってくる。卵から小さなタコの赤ちゃんたちが生まれてくるのである。母ダコは、卵膜にやさしく水を吹きかける。卵を守り続けたメスのタコには もう泳ぐ力は残っていない。足を動かす力さえもなく子どもたちのふ化を見届けると、母ダコは安心したように横たわり、力尽きて死んでゆくのである。これが、母ダコの最期である。そしてこれが、母と子の別れの時なのである。